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散りゆく桜の下で

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今年は満開のこぼれるような桜をぜひ見にいきたいと思っていた。若い頃は、純粋に桜を見るために出かけたいなんて思うことはあまりなかったんだけど...何故か人は年齢と共に花や木を愛でるようになるものらしい。

これまであまり見たこともなかった開花予想や、場所ごとの状況のチェックにも余念がなかった。寒い日も続き、例年より開花が遅れるということもあって、余裕で満開の桜の下で、おいしいものでも食べられる、なんて思ってたんだけど...あまいね!自然は微妙なのだ。

先週の日曜日、一日時間がとれたので「よし!」と朝からネットで京都の開花状況を見てみると、0~4分咲きなんて記述が。じゃあ京都はお預け。大阪にしよう!と、はりきって支度をし、東西線・大阪城北詰駅に隣接する藤田邸公園から造幣局側に橋を渡り、大川(旧淀川)沿いに帝国ホテル大阪前の遊歩道を進んで、環状線・桜ノ宮駅に抜ける定番のコースを歩いた。一本一本の木を見ればそこそこ開いているものの、総じて言えば7分咲き程度。真っ盛りの雰囲気は少なく、木によっては、まだ硬く花を閉じたつぼみが、少し濃い目の色合いを茶色い幹の重なりの上にまばらに点描し、遠目には、あのふんわり淡い一面桜色の風景には至らない、少しくすんだ感じだった。翌日の月曜日には気温も上がり、一気に満開を迎えたらしいが、たった一日の差で満足できなかったのだ。

大阪1 大阪2
大阪3 大阪4

そして昨日の土曜日。いよいよ京都だ。今度こそ、と意気込んでいた。前日の雨が少し不安だったが、午前中には雨も上がるということで、今回は30年近く関西に住んで、まだ一度も見たことがなかった八坂神社横、円山公園の有名な枝垂桜を見て、帰りにはいかにも祇園という風景の白川南通りあたりに行ってみよう、ということになった。雨も上がり日も差し始め、穏やかに花粉漂う(!)午後1時頃自宅を出たのだが...

結果的に言えば、2、3日遅かったかな、という印象だ。花の盛りは短い。こぼれるような淡い桜色の風景を期待していた目には、少しがっかりの光景が多かったが、まあ花吹雪は存分に味わえたし、桜の種類によっては満開で、しっかり花をつけた円山公園の枝垂桜も見ることができたので、上出来としよう。

京都1 京都2
京都3 京都4

散りゆく桜の下で、樹の幹に背中をつけて、静かに穏やかに宴会を執り行っている人たちを眺めながら、なんだか僕の知っている花見の宴会の喧騒を、そういえば先週今週とも、ほとんど見かけなかったなー、なんて思っていた。かつてはカラオケ機器を無理やり持ち込んで歌ったり踊ったりしているおばちゃんや、酔っ払って大声を張り上げているおっちゃん、一気飲みでえらいことになっている大学生やなんかがごちゃーっといて、あーあ、外人さんにこんなところ見せられへんなー、なんてこともあったと思うが、静かになったというか、お行儀がいいというか。好ましくはあるんだけど、なんとなく日本の元気のなさが、こういうところにも表れているような気もして、一抹の寂しさも感じてしまった。身勝手なものである。

ところで、桜の樹の下で花吹雪を眺め、その美しさを実感しているとき、一瞬狂気のような気配を感じてしまった。それは、円山公園へ向かう四条通りで、その2日前にあった大きな事故現場の交差点にうずたかく積まれていた花束を思い出したから、というだけでもない。理不尽な力で命を奪われた7人の冥福を祈りつつ通り抜けたのだが、今思えばそれは桜の満開の日だったのだろう。それに通じる狂気の発想は、今回桜を見にいこうと思った頃に思い出した2編の古い短編小説のせいだと思う。その2編とは梶井基次郎の「桜の樹の下には」と、坂口安吾の「桜の森の満開の下」だ。どちらの小説も初めて読んだとき、衝撃を感じた作品だった。

「桜の樹の下には屍体が埋まっている。これは信じていいことなんだよ。」という文章で始まる梶井基次郎の短編小説。結核という不治の病に冒されていた彼が桜の美しさとの均衡をとる唯一のものとして、「死」を選んでいることは、象徴的でもあり、それだけ畏れをもって桜のあまりの見事さに驚嘆している様を実感することができる。

坂口安吾の「桜の森の満開の下」は、残酷でグロテスクで強烈な作品だが、だからこそそこに表現されている舞い散る桜の美しさには、切迫感があり妖艶でもある。これは戦争直後に書かれた作品であり、戦争での体験がベースにあるのだろうが、そのたくさんの理不尽な死と、それでも毎年決まった頃に咲き乱れる、狂気さえ感じる桜の美しさは、作者にどちらも同種の残酷さを感じさせていたのだろうと推測する。

しかし、そこで思った一瞬の狂気も、穏やかな春の日差しの中、すぐに消えていった。そしてその後には、何故か空腹がやってきたのだ...あー、生きてるんですねー。


さて今日の音楽、「さくら」ということで色々考えてみたけんだけど案外出てこない。うーん、じゃあ名前連想ということで、この古いジャズボーカル・アルバム 「ブロッサム・ディアリー」なんてどうだろう。もちろん、名前の「ブロッサム」とのマッチングだが、なかなかいいかもしれない。

Blossom Dearie (+3) / Blossom Dearie
Blossom Dearie (+3) / Blossom Dearie


このアルバムは、20歳代で渡欧し、フランスでジャズシンガー、ピアニストとして活動していたブロッサム・ディアリーが、1957年、33歳でアメリカに帰国後、初めて録音したアルバムである。3年前に84歳で亡くなった彼女は、80歳近くになるまで、そのキュートな声で歌い続けていたが、どちらかといえばジャズ色をあまり感じさせない晩年だったと聞く。これはそんな彼女のジャズっぷりを堪能させてくれるアルバムで、今聴いても古さを感じさせない。

このアルバムもまた、ジャケットに魅せられて何の知識もなく購入した一枚だ。父親がスコットランド系、母親がノルウェー人という彼女は、色白でブロンド、当時はジャケットにも写っているデカメガネがトレードマークだったらしい。恐らく楽譜を広げたグランドピアノの前で歌っている姿なのだろうが、ごっついマイクとモノクロームの世界が、いい感じでとってもレトロ。パリ帰りのおしゃれな雰囲気をたっぷり感じさせる。

ヴァーブ・レコードの主宰者ノーマン・グランツ直々にパリのシャンゼリゼ通りのクラブで歌っていた彼女に目をつけ、口説き落とし契約したというだけあって、バックはギターがハーブ・エリス、ベースがレイ・ブラウン、ドラムスがジョー・ジョーンズと、名手たちを揃えて臨んでいるが、彼女のピアノはそれにしっくり馴染み、演奏面の実力も見せ付けている。声は大人の雰囲気とは対極の、ちょっと幼さすらも感じさせるものだが、その歌は上手くコントロールされていて、曲によって英語とフランス語を歌い分け、とっても洒脱だ。

恐らくジャズが最も輝いていた時代に満ちていた幸福感を、いま耳を傾ける僕たちにも感じさせてくれる、そう、まさに春を感じる音楽なのだ。

6曲目の英語で歌う“Thou Swell (ザウ・スウェル)“でしっかりとしたスイングを聞かせ、7曲目の”It Might As Well Be Spring (春の如く)“ではフランス語でしっとりと魅せるくだりが、僕はとても好きなのだが、やはり”春“なのだ。

  Link: Thou Swell - Blossom Dearie
  Link: It Might As Well Be Spring - Blossom Dearie

そう思ってアルバムの全体を眺めてみると、「Spring」のつく曲が、”A Fine Spring Day”、”They Say It’s Spring”と全部で3曲も入っている。恐らく本人も「春」を意識したんじゃないかな。

  Link: A Fine Spring Morning - Blossom Dearie
  Link: They Say It's Spring - Blossom Dearie

ちなみに、名前の「ブロッサム」は本名で、彼女が生まれたときに彼女の兄が父親のところに満開の桃の花を持ってきたことから命名されたらしい。4月生まれの彼女なので、ちょっと期待していたんだけど、桜じゃなかったね。んー、残念!ま、桃の方がそれらしいかな。


そうそう、空腹の後の話を書いてなかった。その後円山公園を後にして、予定通り白川南通りまで行った。ここ祇園の巽橋前の桜も、まさに散っていく最中だったが、通りは人であふれていた。その巽橋脇に、鉄板焼き・お好み焼きの店「たんと」がある。いつも行列のできているお茶屋さんを改造したお店だが、時間が中途半端で人も並んでおらず、図らずも一番いい席からこの時期だけしか開放していない全開の窓を通して、散りゆく桜を眺める人々をビールを飲みながら見物するという、得がたい経験ができた。祇園・ストリートウォッチングである。鉄板焼きもお好み焼きも、大満足。ごちそうさまでした。

今日はもうほとんど散っているんだろうな。自然って...微妙ですね。

京都5 京都6
京都7 京都8



  *** 文中ご紹介の2篇の小説は、著作権が切れていて、ネット上でも読むことができます。
     ちょっとグロテスクですが、よろしければ。

     Link:  桜の樹の下には / 梶井基次郎
     Link:  桜の森の満開の下 / 坂口安吾



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