Jerrio's Cafe

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秋でもないのに...

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秋でもないのに、“When October Goes” が無性に聴きたくなった。昨年もそうだったように、この時期、晩秋に通じるような感覚に陥ることがよくある。その背景を普段意識することはあまり無いのに、無意識に求める音楽から、ふと自分自身の心持ちに気づかされるのだ。期末という点では、様々な思いが重なる時期ではあるんだけど、やはり季節は春。4月になればそんな気分もどこかにかくれてしまうんだろうな。

僕がこの曲を知ったきっかけは、日本の老舗ジャズレーベル、澤野工房から2002年に発売されたジャズピアニスト・山中千尋のセカンドアルバム、「When October goes」だった。思えば、その少し前から、僕の良く行くCDショップでも澤野工房のコーナーができていて、リリース作品を紹介するパンフレットが陳列されたりもしていた。

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WHEN OCTOBER GOES / チヒロ・ヤマナカ・トリオ

当時はパンフレットを持ち帰ってはみるものの、国内盤なので輸入CDの倍ほどの価格であり、欧米を中心とした名前も知らないアーティストの作品を購入するには、少しハードルが高かった。そんな中で見かけたチヒロ・ヤマナカ・トリオのファーストアルバム、「Living Without Friday」は、日本人名ということもあり、その鮮やかなジャケットと合わせて結構目立っていたが、気にはなるものの、やはり購入するには至らなかった。

ちょうどその頃、偶然にもテレビから聞こえてきた「山中千尋」の名前に吸い寄せられるようにして観たTBSの番組「情熱大陸」で、当時ほとんど知られていなかった彼女の姿を初めて目にしたのだ。調べてみると放映日は2003年3月30日だったようだが、そこに映し出された山中千尋は、確かな才能を感じさせながらも、その華奢な体で、何かに突き動かされながらぎりぎりの状態で演奏しているように見えた。確か彼女自身が抱えた病気の話もあったと思う。初の日本でのツアーに点滴を打ちながら気丈に臨む彼女の姿はとても痛々しかったが、その衝動は何の外的要因からでもなく、彼女自身の内側から溢れ出る音楽に対する思いと、それに忠実に従おうとする意志の表れなのだろう、と感じたのだった。

その映像を目にした直後に、CDショップの澤野工房のコーナーで迷わず購入したのが、数ヶ月前に発売されたばかりの彼女のセカンドアルバム「When October Goes」だった。そのアルバムは、映像から感じた危うさなどどこにもない、安定感すら漂う素晴らしい技術と様々な音楽的アイデアに満ち溢れた作品だった。

トリオのメンバーもすごかった。当時既にニューヨーク屈指のリズムセクションとの触れ込みだったが、ベースのラリー・グラナディアとドラムスのジェフ・バラードといえば、まさに現時点のトリオの最高峰、ブラッド・メルドー・トリオのレギュラーメンバーであり、メジャーレーベルではなく、通天閣を臨む大阪・新世界の商店街にひっそりと存在する澤野工房レーベルでのレコーディングは、まさにアーティストとしての山中千尋の才能に引き寄せられてのことだったのだろう。


さて、話を元に戻そう。僕は当時、このアルバムの8曲目にあるタイトル曲に強く引き込まれた。前奏も無くいきなりさらっと始まるこの曲から、山中千尋の音楽の醸し出すさり気無い情感に捉えられたのだ。

  Link:  When October Goes / Chihiro Yamanaka Trio

作曲はバリー・マニロウとなっていたが、聴き覚えはなかった。あるいは聴いたことはあったのかも知れないが、まだ若くて新しい音楽を常に求めていた僕自身のフィルターには引っかかってこなかったのだろう。バリー・マニロウの原曲を聴いたのは随分後になってのことだ。そこで聴いたこの曲は、予想通り美しく切ない曲だった。1984年のバリー・マニロウのアルバム、「2:00 AM Paradise Cafe」に収録されている。

  Link:  When October Goes / Barry Manilow

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2:00 Am Paradise Café / Barry Manilow

この曲の歌詞は、「酒とバラの日々」や「ムーン・リバー」などで4度オスカーを獲得した、アメリカを代表する作詞家、ジョニー・マーサーの作だ。彼は1976年に亡くなっているので、1984年リリースの本作とは時間的に合わないのだが、実はこの詩は、彼の妻が遺品を整理していてデスクの片隅で偶然にも見つけた未完の遺作だったらしい。彼女はその内容に強く心を動かされ、ジョニー・マーサーとも懇意にしていたバリー・マニロウに曲をつけてもらおうと閃いたそうだ。バリーもその詩の奥に流れるものに心を動かされ、すぐに曲として完成させたという。その歌詞は、粉雪が舞い始める晩秋の情景を詠みつつ、人生の上でも晩秋を迎えた情感と重ねていくものだ。ジョニー・マーサーが晩年を迎え、胸に去来するものを静かにしたためた、そういう作品だったのだと思う。

僕も、こういう音楽が、身に沁みる年になってしまったのかな。そんなことを、感慨を持って思い返したわけだけど、まだそこまでは来ていないだろう。せめて初秋くらいでありたいんだけどね。

秋でもないのに、そんなことを思いながら、“When October Goes (10月が過ぎ行く時に)”に聴き入る春の夕暮れなのでした。


<追記>

 前述の「情熱大陸」の一部の映像がYouTubeにありました。

  Link:  「情熱大陸 ~山中千尋~」(部分)

その後の山中千尋の大活躍は、今更言うまでもありませんね。2005年には、ユニバーサル・ミュージック/Emarcyレーベルに移籍し欧州デビュー、2011年には日本人として初めて、アメリカの名門・DECCAレコードと契約し、全米デビューを果たしています。日本では今や、上原ひろみと共に、実力・人気共に申し分ないインターナショナル・アーティストになりましたね。(ちなみに僕は、どちらかと言えば、「ちひろ派」でしょうか。。。)


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