Jerrio's Cafe

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ゆく夏を惜しめない

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ゆく夏を惜しむ。そんな表現が妙に懐かしい。今や、ゆく夏を喜んで見送ることはあっても、惜しむことなど、ほとんどなくなってしまった。夏によく行った海にも、今は全く行かなくなった。この夏帰った四国でも、一度も海に近寄らなかった。唯一海の表情を垣間見たのは、大阪に戻る途中、瀬戸大橋にあるサービスエリアからだった。そんな海を見ても、心躍ることは無い。大好きだった夏のさわやかさや鮮やかさの記憶は、最近の不快なほどの夏の表情に、かき消されてしまったのだろうか。

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若い頃は、お盆も過ぎて9月の足音が聞こえはじめると、それまで遠くに見えていた「ゆく夏」の背中が、急に近くに迫ったような気がして、少し寂しく感じたものだ。


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Declaration of Dependence(2009) / Kings Of Convenience

泳ぎ疲れて、そろそろ引き上げようかと上がった後の冷えた体。背中に当たる日差しに、もう真夏の鋭さはない。かすめる汐風にも、心なしか初秋の気配を感じたりする。肌寒さを感じる前にシャツを引っ掛け、もう夏も終わるんだなと実感しながら、海の向こうにかすむ島々を見つめる。ゆったりとした時間が流れる中で、友人のつま弾くギターの音が心地よく響く...

キングス・オブ・コンビニエンスの2009年のアルバム 『Declaration of Dependence』のジャケットは、そういうシチュエーションを想わせる。もちろんバックに流れ始めるのは、アルバムの冒頭を飾る「24-25」だ。

   Link: 24-25 / Kings Of Convenience

キングス・オブ・コンビニエンスはノルウェー出身のアーランド・オイエ(Erlend Øye)とアイリック・ボー(Eirik Glambek Bøe)によるデュオグループで、二人の奏でるアコースティック・ギターのフレーズと力の抜けたコーラスの気持ちよさに、僕は一時つかまってしまった。静かに浸透する麻薬のような音楽は、ずっと聴き続けていたいという衝動を連れてくる。

その気持ちよさの背景にはっきりあるのは、フレーズの反復性だ。冒頭から提示される2小節や4小節のギターを中心とした伴奏フレーズが、少しずつ形を変えながら繰り返される。そこにサイモン&ガーファンクルを彷彿とさせるコーラスが乗ったり、ビオラやピアノなど、ちょっとしたアコースティック楽器が花を添えたりする。

  Link:  Me in You / Kings Of Convenience

一定の振幅を決して逸脱しないミニマルな音の流れにのせられた、囁くような歌声が醸し出す繊細な感覚は、ボサノヴァに通じるところもある。もちろんノルウェー出身のグループということで、北欧特有の抜けた感覚も持ちながら、ノルウェー語ではなく全編英語で歌われるその音楽の反復性には、ダンスミュージックやエレクトロニカに通じるような今風の音楽的ベースも感じるのだ。

  Link:  Boat Behind / Kings Of Convenience


その音楽から様々な感慨を受け取って、たった一枚でファンになってしまった僕だが、そこからさかのぼり、2004年のアルバム 『Riot on An Empty Street』 、2001年のアルバム 『Quiet is the New Loud』 も入手し、繰り返し聴いた。そして、その内容は決して期待を裏切らなかった。

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Riot on an Empty Street(2004) / Kings Of Convenience

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Quiet Is the New Loud(2001) / Kings Of Convenience


完全な形のオリジナル・フルアルバムはこの3枚だけだが、もうずいぶん新作が出ていない。解散したという話も聞かないが、この二人はそれぞれ個別のサイドグループやソロで新作を発表しているようだ。それがどういう方向性なのかはわからないが、今度ぜひ入手して聴いてみようと思っている。その音楽は、「ゆく夏を惜しめない」僕に、また「ゆく夏を惜しむ」気分を味わわせてくれるのだろうか...身勝手な期待だけが膨らむ。



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You Belong to Me

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ゴールデン・ウィークも過ぎて、何か楽しい話でもできればいいんだけど、何だかそういう気分でもないので、今日は前回の続きということで。

前回、聴きたい一心で引っ張り出してきたカセットテープの話をした。両面にドゥービー・ブラザーズの2枚のアルバムを録音したもので、そのB面に入っていたアルバム「Minute By Minute」をCDで買い直したという話だった。このアルバムは1978年のリリースだが、A面に入っていたのは、その前年のアルバム、「Livin’ on the Fault Line(邦題:運命の掟)」だった。実は前回、インデックスカードを眺めながら、A面のこのアルバムも少し地味だったけどいいアルバムだったよなあ、などと思い返していた。

図1

そういえば、このアルバムを録音した頃は、4曲目の”You Belong to Me”がたまらなくクールで、この曲ばかり何度も聴き返したことがあったよなあ...そんな思いもあって、連休中タワーレコードに行った際、このアルバムもCDで買い直した。

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Livin’ on the fault Line (運命の掟) / The Doobie Brothers

早速聴いてみると、一曲目、”You’re Made That Way”の冒頭の懐かしいエレピの音形から、あっという間に記憶が手繰り寄せられ、当時の気分に引き戻された。

  Link:  You're Made That Way / The Doobie Brothers

そうそう、この音、この声。思わず身を乗り出してしまう。途中から入るコンガも含め、次作に繋がる世界が既に出来上がっていたことを改めて思った。全般的にはおとなしめのアルバムだが、やはり4曲目の”You Belong to Me”は、最高にかっこいい。当時僕は、このミディアムテンポにパシッとはまったエレピサウンドとマイケル・マクドナルドのくぐもった声に、完璧に魅せられてしまった。その頃感じていただろう新鮮みは失われているのだろうけど、今なお僕にとってこの曲はツボのようである。

  Link:  You Belong To Me / The Doobie Brothers

ところでこの曲、マイケル・マクドナルドがシンガー・ソング・ライターのカーリー・サイモンと共作したものだが、何故かこのアルバムからシングルカットはされなかった。その代わり、翌年、カーリー・サイモンがリリースしたアルバム「男の子のように」にこの曲は収録され、シングルカットもされて、ビルボードのヒットチャートで全米トップテン入りを果たしたのだ。

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Boys in the Trees / Carly Simon

  Link:  You Belong To Me / Carly Simon
     (この映像はライブなので、バックの演奏者はアルバムと違います...)

それによって、この曲の知名度も上がったのだろうけど、僕にとっては、どうもこのカーリー・サイモンによる”You Belong to Me”では、ドゥービー・ブラザーズの同曲でのようなシビレる感じにはならない。カーリー・サイモンのバックを務めているのは、当時大人気のフュージョン・グループ、スタッフのメンバーで、エレピはリチャード・ティー、ドラムスはスティーブ・ガッド、エレクトリック・ギターはコーネル・デュプリーとエリック・ゲイル。さらにはアルト・サックスにデイヴィッド・サンボーン、バックコーラスは当時の夫、ジェームス・テイラーと、まあ何と言うか豪華絢爛、申し分ないメンバーである。

それでもやはり、パシッとツボに入ってこないのだ。世間一般には、この曲はカーリー・サイモンの曲、という認識の方が強いのだろうけど、どうも僕にとっては、マイケル・マクドナルドの声とエレピが必須条件のようである。


さて、ここで唐突に当時の日本の音楽に飛ぼう。オフコースの1980年リリースのアルバム「We are」である。今回カセットテープを色々探しているときにこのアルバムを録音したものも見つけて、その流れで思い出した。インデックスカードには録音日が1980年12月14日になっているので、ドゥービー・ブラザーズのアルバムを録音してから半年後だ。

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We are / Off Course

このアルバムは、当時、どういう風の吹き回しか、ほぼ洋楽しか聴かない友人が持っていて、録音させてもらったものだ。確かオフコースはブレークして間もない頃だったが、彼ら自身洋楽への思いが強かったのか、音や編曲にその指向が表れていて、このアルバムでは西海岸の著名なミキサーにミックスダウンを依頼し、その作業のためだけにアメリカに渡ったということで話題になっていた。今では珍しくもないが、当時の日本では、ほとんど例がなく、とにかく音が違うというので勧められて録音したのだった。

その音は、確かにあの頃の日本発の音楽の音ではなかった。特にドラムスやベースの音が洋楽を聴いているようなインパクトで迫ってきて、その前作の「Three and Two」も知っていただけに、ミックスダウンだけで、ここまで変貌することに衝撃を受けたことを覚えている。

アルバム「We are」には、「時に愛は」や「Yes-No」のような、シングルとして売れた曲も入っているが、このアルバムの中で僕が最も好きだったのが、アルバムの最後の曲、「きかせて」だった。その曲を最初に聴いたとき、う~ん、これは「You Belong to me」の世界だ、と唸ってしまった。メロディーそのものは違うのだが、編曲やテンポの感覚から、恐らく、この曲を相当意識したんじゃないか、と思った。しかもカーリー・サイモンの盤ではなく、ドゥービーの盤。よって、同じようにツボにはまったのかもしれない。

  Link: きかせて / オフコース


さて、登場から30年近くたった、2007年。再び、新たな「You Belong to me」に出会うことになる。それは僕にしてみれば予想外の音楽の中でだった。チャカ・カーンが久々にリリースしたファンキーアルバム、「Funk This」だ。

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Funk This / Chaka Khan

そのアルバムの中に、なんと、マイケル・マクドナルドをフィーチャーした「You Belong to me」が入っていたのだ。

  Link:  You belong to me / Chaka Khan feat. Michael McDonald

何だか、アルバム全体では、この曲だけ少し浮いているような気がしないでもないが、紛れもなくマイケル・マクドナルドの「You Belong to Me」であり、チャカ流のそれでもあった。

とまあ、いろいろ書いてきたが、やはり僕にとって、ドゥービー・ブラザーズの最初の「You Belong to me」は、特別なもの。いつまでも輝きを失わない音楽なのである。


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懐かしくも新しい

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もう一年以上前のこと。突然テレビから流れてきたドゥービー・ブラザーズの ”What A Fool Believes” を耳にして、不思議な感覚に陥った。目を向けると、キムタクが出てくる車のコマーシャルだったが、あの特徴的で軽快なイントロが30年以上の時を経てとても懐かしいのに、何故か思いっきり新しく感じたのだ。

  Link:  TOYOTA トヨタウンCM5「ラブ&ジーンズ 市長登場」篇

イントロに続き、わずかに歌が流れただけでCMは終わったが、当然の如く、続きが聴きたい、さらにはこの曲の入ったアルバム「Minute By Minute」が久々に聴きたい、となる。とは言っても確かドゥービー・ブラザーズのCDは一枚も持っていなかったはず。でも、聴きたい、聴きたい、聴きた~い...ということで、押入れの中をひっくり返し、ダンボールに詰め込まれていた大量のカセットテープの中から、件の一本を必死のパッチで探し出したのだった(関西ローカルです)。

カセットテープのインデックスカードに書かれている日付は1980年6月30日。確か大学に入って間もない頃、友人の持っていた2枚のドゥービーのアルバムを、カセットテープの両面にそれぞれ録音させてもらったものだ。さて早速、と思って、はたと気づいた。そういえば、息子が使っていたカセット付きのミニコンは、少し前に廃棄したんだっけ。ということで、携帯型のカセットプレイヤーを探し出し、充電をしてインナーフォンを装着、さて聴くぞ、とプレイボタンを押すも、反応なし。回らない。そこに至って初めて、我が家にはカセットテープを聞く手段が、既に消滅していることに気づいたのだった。

その後、聴きたい気持ちはふつふつと燻っていたんだけど、先週になってようやくアルバム「Minute By Minute」をCDで買いなおし、懐かしい音楽にどっぷり浸った。

  Link:  What A fool Believes / Doobie Brothers


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Minute By Minute / The Doobie Brothers


それにしても、ボーカルをとっているマイケル・マクドナルドの声は、いつ聴いてもシビれる。僕の好きな男性ボーカルの声の中でも、間違いなく3本の指に入るだろう。少し高めの、ソウルフルだけど生真面目な感じのハスキーボイス。笑顔なんて似合いそうにないちょっとシリアスなくぐもった声。”What A Fool Believes” は、そんなマイケル・マクドナルドを頂点に引き上げた曲でもあった。

この曲はビルボードチャートでトップになり、1980年のグラミー賞・最優秀レコード賞を獲得、さらに最優秀楽曲賞もとって、この曲を共作したマイケル・マクドナルドとケニー・ロギンスにもスポットが当たった。ただ、日本ではなぜか、その前年にグラミーをとったビリージョエルの「素顔のままで」や、前々年のイーグルス、「ホテル・カリフォルニア」ほどには、流行らなかったと記憶している。

しかし、僕は当時、米国発の音楽を色々追う中で、この曲の影響力の絶大さを目の当たりにした。楽曲の良さもさることながら、スタジオミュージシャンとして長年鳴らしてきたマイケル・マクドナルドが見せるピアノでのこの曲特有の奏法と音形は、その後さまざまな楽曲に飛び火し、そのたびに僕達も面白がって、話題にした。

例えば、ロビー・デュプリーの「Steal Away」。1980年発売のAORの名曲だが、途中、おおっと思うような音形が出てきて思わずうなづいたものだ。

  Link:  Steal Away / Robbie Dupree

そうそう、ポインター・シスターズの「He’s So Shy」も、ピアノではなかったけど、そのテンポといい、サビの部分の伴奏音形といい、影響を受けてるんだろうな、と感じていた。同じ1980年発売で、ビルボードのチャートでも結構上位まで行ったはずだ。まあここまでくれば、日本でも松田聖子の「白いパラソル」の前奏なんて、グレーゾーンなんだろうけど...

  Link:  He's So Shy / The Pointer Sisters

ところで、マイケル・マクドナルドと共作したケニー・ロギンスは、日本ではその5年後の「フットルース」あたりまで、あまり知られてはいなかったけど、やはり同時期の自分のアルバムにこの曲を入れている。これが、ギター主体で、結構雰囲気が違うわけで、やはりマイケル・マクドナルドのあの奏法が、当時のこの曲の決め手だったのかな、という気がする。


35年近く前のこの曲が今でも新鮮に響くのは何故なんだろう。あるいは、当時のことを知っている自分には特別にそう聞こえるだけなのかもしれないと、たまたま帰省していた息子に聞いてみた。彼曰く。「最近の曲かと思った。古く感じない。」ふむふむ。君は正しい!

その要素は色々あるのだろう。今も変わらないピアノの入ったバンド編成と、いい声、コーラスが主体であること...いやいや、編成だけのせいではない。完成されて隙のない独自性のある音楽や演奏は、いつの時代にも、新鮮に響くものなのかもしれないね。



<おまけ>

この曲が流行ってから十数年後、ケニー・ロギンスのライブにマイケル・マクドナルドがゲスト出演した時の"What a Fool Believes"の競演です。ギターを前面に出したケニー・ロギンスバージョンの一端が表現されています。同じ曲とは思えないくらいだけど、これはこれで、結構いけますよね。

  Link:  What a Fool Believes / Kenny Loggins & Michael McDonald (Live)

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シンフォニー・セッションズ

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寒いので冬眠中、と言いたい気分だ。でも熊じゃないので冬眠しててもおなかは減るし、仕事もあるのでおちおち眠ってもいられない。かくして、寒い中を朝も早くから、ぼそぼそ起きて活動するわけだけど、やはり寒いのは苦手だ。まあ、暑いのも苦手なんだけど・・・

そんな中、世間はソチ・オリンピックで盛り上がっている。僕はといえば、これまでウィンタースポーツには縁がなかったので、冬の競技にはあまり興味が湧いてこない。それでもニュースでオリンピックのハイライトが流れていれば、ついつい見てしまい熱くなって、「上村愛子はえらい!」などと頷いてしまうんだけど。

期待を背負ったアスリート達はみんな頂点を目指しているので、夢が叶った喜びよりも、夢がついえた悔しさを見る事の方がどうしても多くなる。競技そのものを純粋に楽しめればそんなこともないんだろうけど、あまり知見のない僕にとっては、そういうちょっと切ない部分だけが目に付いてしまって、余計に遠のいてしまうのだ。

ただ、金曜日の深夜にあった開会式だけは、またまたフルで見てしまった。早朝だったロンドン・オリンピックの開会式も音楽に焦点を当てたもので結構楽しんだんだけど、音楽の視点だけでいくと、「ロシア」といえばやはりクラシック。(タトゥーじゃないです。)地味ではあったけど、たくさんのロシアを代表する作曲家の音楽が流れ、さすがと思わせた。チャイコフスキー、ハチャトリアン、ストラヴィンスキー、プロコフィエフ等々。その音楽は出し物と合わせて印象的だったが、そんな中で開会式のテーマソング的な役割を果たしていたのは、ボロディンの「ダッタン人の踊り」(オペラ「イーゴリ公」より)だった。

  Link:  ボロディン オペラ「イーゴリ公」より「韃靼人の踊り」

学生時代、この曲もまた、一度演奏したくて叶わなかった曲だ。豊かで広大な平原を思わせるテーマが、やさしく大らかな心持にさせてくれる、僕の大好きな曲である。


そんなことを思いながら、久々にのんびりとした休日を過ごしてるんだけど、さて、今日は何を聴こうかといろいろ迷った。この流れでクラシックも芸がないし、と、ふと思い立って引っ張り出してきたのがこれ。デイヴィッド・フォスターの2枚目のソロアルバム、1988年リリースの「シンフォニー・セッションズ」だ。

The Symphony Sessions / David Foster
The Symphony Sessions / David Foster


学生時代にはビルボード・チャートを追いかけたりもして、結構ポップス系の音楽は聴いていたんだけど、周辺の情報を細かく気にする方ではなかったので、なんとデイヴィッド・フォスターのことを認識したのはこのアルバムが最初だった。それも、何かの雑誌のニュー・リリースの記事で見た全面グランドピアノのジャケット写真に興味を持って、その記事だけでは何のジャンルのアルバムかさっぱりわからないまま、たまたま店頭のポップスコーナーで見つけて購入したのだった。

その時点で既にプロデューサー、アレンジャー、コンポーザーとしてグラミー賞にノミネートされること24回、84年には最優秀プロデューサーに選出されていて、日本のポップス界にも既に大きな影響を与えていた。竹内マリアや尾崎亜美のプロデュースもしていたので、当時名前を聞いてピンと来なかったのが不思議なくらいだった。シカゴの「素直になれなくて」の作曲と彼らのプロデュースは、当時の彼の代表的な仕事だ。

そんないかにもアメリカンな印象のデイヴィッド・フォスターは、実はカナダ人であり、86年の自身初のソロアルバムに次いで2作目となる本アルバムでは、殊にカナダへの回帰色を鮮明にしている。本作は、カナダのバンクーバー・シンフォニー・オーケストラをバックに、自身で作曲・アレンジした音楽を全10曲ピアノ演奏したアルバムで、実は僕が音楽のジャンル分けにこだわらなくなった、最初のきっかけをつくってくれたアルバムだったのかもしれない。

そして、今日紹介しようと思った最大のトリガーは、このアルバムの6曲目に収められた曲、"Winter Games" が、1988年にカナダで開催されたカルガリー・オリンピックの公式曲だったことだ。冬季オリンピックの公式曲といえば、札幌オリンピックの ”虹と雪のバラード” と、この ”ウィンター・ゲームス” くらいしか思い浮かばない。

  Link:  Winter Games / David Foster - Official Video

この時代のポップス系のアルバムは、得てして当時流行したデジタルシンセサイザーの音に溢れていて、今聴くとなんとも古臭く時代がかったものが多いのだが、このアルバムは違う。冒頭の曲、"Piano Concerto in G"から驚かされたように、オーケストラとピアノが主体の、今聴いても決して古くない、素晴らしい音楽が詰まっているのだ。

  Link:  Morning to Morning(Intro)~Piano Concerto in G / David Foster- Official Video

いきなりのピアノ・コンチェルト風の楽曲から始まったあと、それに続く2曲目、"The Ballet"は、まさに第2楽章アダージョ、という感じである。

  Link:  The Ballet / David Foster - Official Video

4曲目の"Conscience"も7曲目の"Water Fountain"も、まるで映画のワンシーンを観るような、ゆったりとした感傷的な曲だが、それもそのはず、"Water Fountain"は、マイケル・J・フォックス主演の映画「摩天楼はバラ色に」の挿入曲 ”愛のテーマ” で、このアルバムの影響で僕もDVDを期待しながら観たんだけど...なんと、ちょっとおバカなコメディーで、期待とは大きく違っていた。(何も考えず楽しみたい人にはお薦めです。)

  Link:  Water Fountain (Intro) ~ Conscience / David Foster - Official Video
      (イントロだけ、"Water Fountain"が出てきますが、後は"Conscience"です。)
  Link:  Water Fountain / David Foster
      (1994年来日時の、新日本フィルとの演奏ではないかと。。。)

最後の曲、"We Were So Close"は、唯一のピアノソロ。そのやさしい音楽は、この素晴らしいアルバムの興奮をすばやくクールダウンさせるために機能しているようだ。

  Link:  We Were So Close / David Foster - Official Video

ある意味、臆面もなくデイビッド節を思いっきり奏でたこのアルバムを、僕はしばらくの間、かなり愛聴していた。今思えば、僕のそれ以降の音楽的な志向に、大いに影響を与えてくれたアルバムだ。

デイビッド・フォスターは、その後さらに活躍を続け、たくさんのミュージシャンを世に出して、今やワーナーの重役でもある。最近は、かつてその音楽を共に紡ぎだしたミュージシャン達とコンサートを開き、その豪華なメンバーと日本ツアーも行っている。まるで往年のクインシー・ジョーンズのようだが、その位置に誰でも来られるわけではない。


窓越しに、ひんやり寒さの増した空を眺めながらも、温まった部屋と懐かしくやさしい音楽で、気分もぽかぽかしてきた。とにかく結果は気にせず、力を出し切って欲しい。まだまだ雪が残って大変な日本列島に続いて、雪のかけらもないソチ周辺の映像を眺めながら、ちょっと不思議な気分になりつつ、そんな勝手なことを思う、冬の休日だった。



<おまけ>

映画「摩天楼はバラ色に」のDVDもぜひどうぞ。

摩天楼(ニューヨーク)はバラ色に [DVD]
摩天楼(ニューヨーク)はバラ色に [DVD]


映画、予告編もどうぞ。(海外版ですが)

  Link:  摩天楼はバラ色に(予告編)

サントラ盤での「愛のテーマ」="Water Fountain"の演奏はこれ。
オケ版の方がいいと思うんですが、まあこれもこれかな。

  Link:  The Secret of My Success OST (David Foster Score) Water Fountain


グッバイ・ママ

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夏の終わりは、やはり寂しい。別にゆく夏を惜しんでいるわけでもなく、むしろ暑すぎる夏に辟易としていたはずなのに、秋の気配を感じ始めると、何故か寂しさが募ってくる。おまけに週末は雨続きだし、仕事の先はよく見えないし、どんどん歳は取っていくし、あまちゃんは終わりそうだし...寂しいよねー。

そんな初秋特有の気分に包まれてコーヒーなんぞ飲んでいると、リビングのテレビから懐かしい曲が流れてきた。CMのようだ。見ると着物姿の吉永小百合が延々スマホで話をしている中を ”SOFT BANK” の文字だけが流れてくる。なるほど、他には一言も一文字も流れないのに、それだけでどこ製のスマホかわかってしまうという仕掛けのようだ。その映像を引き立てるように、アコースティックギターのコード音が流れ、つぶやくような歌声が静かに届く。何ともコンプレックスに満ちた歌詞に、夏の終わりの寂しさと気だるさを漂わせたような曲 “At Seventeen (17歳の頃)”は、ジャニス・イアン、1975年の名曲だ。案外合ってるね。

“At Seventeen”とその曲の入ったアルバム「Between the Lines」は共に全米ナンバー・ワンとなり、1976年のグラミー賞で彼女は最優秀女性ポップボーカル賞を獲得している。

  Link:  At Seventeen (1976 GRAMMY Awards) / Janis Ian

Between the Lines / Janis Ian
Between the Lines / Janis Ian


ジャニス・イアンは60年代に10代でデビューし天才少女と騒がれながら、数枚のアルバムを発表し消えていった。その頃、結婚・離婚も経験するが、彼女自身はソングライティングで再び表舞台に出ることを夢見ていたようだ。そんな彼女が再度注目を浴びたのは、彼女の作った楽曲”Jesse”がロバータ・フラックの名盤「Killing Me Softly」で取り上げられ、ヒットしたからだ。この曲を自らも歌い歌手として復帰、大ヒット曲"At seventeen"でグラミー賞を獲ったときには、すでにデビューから10年近くたっていた。

  Link:  Jesse / Roberta Flack


しかし僕にとってジャニス・イアンといえば、やはり ”Love is Blind” だ。この曲は、当時TBSドラマ「グッバイ・ママ」の主題歌になり、日本で大ヒットした。グラミー賞を受賞したばかりの旬の米国シンガーの曲が、日本のドラマの主題歌になる事自体が異例だったこともあるが、その悲しい音楽とドラマの内容のマッチングがとても印象的で鮮烈だったことが、大ヒットの要因だったのだろう。

  Link:  Love Is Blind / Janis Ian

その頃僕は高校に入学したばかりだったが、何故かこのドラマのことはよく覚えている。恐らく例によってお袋がボロボロ泣きながら観ているのを尻目に、ちょこちょこ観ていたからだろう。前年に流行った「前略おふくろ様」でショウケンの相手役として印象的だったまだ20歳そこそこの坂口良子が、シングルマザー役で主演だった。

「グッバイ・ママ」は不治の病にかかり余命幾ばくもないことを知った坂口良子扮する母親が、残される一人娘を案じて子供を託せる相手を懸命に探そうとするストーリーだったと思うが、最終回の大雨のバス停で誰にも気付かれずに死んでゆく母親の帰りを、何も知らない娘がずっと待ち続けるという救われない結末と、そこに流れる”Love is Blind”の切ないメロディーが、記憶のすきまにしっかり残っていた。

実生活でも苦労人だった坂口良子が、何年か前からテレビによく登場していたことは知っていたし、タレントである娘と共に出演しているのを何度か見たこともあるが、今年の3月、なんと57歳という若さで亡くなったと聞いた時には本当にびっくりした。そして真っ先に思い出したのがこの「グッバイ・ママ」と主題歌の”Love is Blind”だった。

彼女が2年近くガンであることを隠して活動していたと聞いたとき、僕自身が感じていた「頻繁に娘と共に出演していたことへの違和感」と、この「グッバイ・ママ」とがピタリと重なった。もちろん娘と言ってもドラマでの子供ように小さいわけでもなく、ドラマ当時の彼女の方が若かったくらいだが、後に残していくまだ自立し切れない娘を思う気持ちは同質のものだったのではないだろうか。あるいは彼女は自らの境遇を「グッバイ・ママ」と重ねていたのかもしれない。僕は当時とはずいぶん変わってしまった彼女が頻繁にメディアに登場することに少し複雑な心境だったが、その後を何かに託したい彼女の思いが、自らの活動に表れていたのでは...そんなことを思うと「グッバイ・ママ」のオープニングの踏切を渡る親子の映像とその音楽がしきりに思い出され、どこまでも切ない気持ちになったものだ。

  Link:  「グッドバイ・ママ」 (1976) (テレビ探偵団)
    (この映像はテレビ探偵団でゲストの小泉今日子が
     もう一度見たい番組として「グッバイ・ママ」を挙げたときのものです)

そんなことがあって数か月前、本当に久々に”Love is Blind”の入ったアルバム「Aftertones」を引っ張り出してきて、それぞれに別種の聴かせどころを持つ聴き覚えのある楽曲たちを、なんともいえない懐かさを感じながら聴いた。記憶の中では、”Love is Blind”の印象から、もう少暗いアルバムだと思い込み敬遠していたが、これほどバリエーション豊かだったことは忘れていた。とても落ち着いた、いいアルバムだった。

Aftertones / Janis Ian
Aftertones / Janis Ian


ジャニス・イアンも、実は苦労人で坂口良子と同じように、結婚、離婚、金銭トラブル、病気と、目まぐるしい人生を送ってきた。僕自身、彼女はアメリカよりも日本での人気の方が高かったのではないかと思っていたが、20年ほど前の復帰以降は、本国でも着実にキャリアを重ねてきたようだ。そして今年のグラミー賞では、自伝「ソサエティーズ・チャイルド」で最優秀朗読アルバム賞を受賞したようで、まだまだ現役である。


年齢的にそれほど違わない二人の糸は、確かにあの時、一点で重なっていた。その偶然のもたらしたものは、それぞれの人生に大きな意味を持っていたのだろう。そしてその相乗効果は確かに多くの人の心を揺さぶった...そんなことを今になって僕たちに思わせてくれるだけでも、素晴らしいことだと思うんだけど...

ご冥福をお祈りします。



<おまけ>
こんな映像もありました。あの頃のジャニス・ストーリーです。
Link:  Janis Ian Song to Soul 3 Jesse to Love is Blind