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The Rose

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先日、NHKの音楽番組『SONGS』が「平井堅オールタイムリクエストベスト」ということだったので、久々に録画して見た。平井堅といえば、最近は様々なタイアップ曲をちょこっと耳にするくらいだけど、少し前にはアルバムも購入して結構聴いていたんだっけ、なんて思いながら。でも、その「少し前」が実は十数年前だったことにハタと気づき、愕然として思考停止。我に返って気を取り直し、数枚あった当時のアルバムを引っ張り出してみたんだけど・・・

確かにリクエスト上位の、当時のベタなヒット曲の入ったオリジナルアルバムもいいのだが、その中で最もよく聴いた大好きな一枚は、2003年に発売されたカバーアルバム『Ken’s Bar』だった。僕はおそらくこの一枚で、この人の音楽に対する真摯な姿勢やセンスの良さを実感し、共感したのだ。

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Ken's Bar / 平井堅

このアルバムは、最近やたらに流行っているカバーアルバムブームの先駆けと言えるかもしれない。ただ単なるカバーではなく、全く売れていない時代から自ら定期的に行っていたカバー曲中心のアコースティックライブを再現したような作りになっているのがミソだ(あくまでスタジオ録音ですが)。会場に向かう足音や2部構成の合間に入るドリンクタイムの喧騒などの効果音もさることながら、そのピアノやギターを中心としたライブな音作りは、親密で落ち着いた雰囲気を演出する。確かに静かにグラスを傾けたい気分になる。

このアルバムの贅沢さを書けばきりがない。キャロル・キングの「You’ve Got a Friend」をポール・ジャクソン・ジュニアのアコースティックギターに合わせてデュエットするのはレイラ・ハサウェイ。レイラの父、ダニー・ハサウェイはこの曲をロバータ・フラックとともに歌い大ヒットさせた。まだ世に出て間もないノラ・ジョーンズの「Don’t Know Why」は、作者であるジェシー・ハリス自身のアコースティックギター伴奏によるNY録音だし、平井堅が幼少期の思い出とともに大切にしてきた曲「大きな古時計」は、矢野顕子の自由闊達なピアノ伴奏にのせる、などなど、それぞれの曲でのワンポイントが、まあとんでもないのだ。おまけに最後に、その年の紅白歌合戦でも話題になった坂本九とのバーチャルデュエットによる「見上げてごらん夜の星を」を配する。そりゃあ売れないわけがない。

その中で僕にとって圧巻だったのは、当時若干20歳のジャズ系のシンガーソングライター、ピーター・シンコッティのピアノによるオープニングのインストゥルメンタル「even if」(これは平井堅の作で、前述の『SONGS』でのリクエストNO.1でした)に始まり、それにつながるピアニスト塩谷哲(しおのやさとる)のピアノ伴奏によるベット・ミドラーの「The Rose」、長年バックを務めてきた鈴木大のピアノ伴奏による桑田佳祐の「One Day」へと続く、ピアノサウンドが美しい冒頭3曲である。

特に「The Rose」をこのアルバムで最初に聴いた時は、思わずハッとさせられて、しっかり聞き入ってしまった。塩谷哲の澄み切ったピアノサウンドと抜群のアレンジ、それに絡んでくる平井堅の高音域の声の情感は、一気にそこから二十数年前の記憶を呼び起こさせてくれたのだ。今でこそこの曲は多くの日本人ミュージシャンにもカバーされ、2年前にはベット・ミドラーのオリジナル版がテレビドラマの主題曲にもなったりして、頻繁に耳にしている気がする。しかし当時そういう感覚を持ったのは、まだあまりカバーされていなかったことと、男性が歌うことの意外性、そしてその演奏からストレートに感じた救われるような清新さが、過去の記憶と呼応してよみがえったからだと思う。


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「The Rose」は1979年に公開された同名のアメリカ映画の主題歌である。一般的には、60年代を代表する夭折のロックシンガー、ジャニス・ジョプリンをモデルにした映画のように思われているかもしれないが、少しニュアンスが違う。元々は、ジャニス・ジョプリンの伝記映画を製作しようと企画されたのだが、最後まで遺族の許可が得られなかったという。そういう中で、当時すでにブロードウェイで歌唱力、演技力共に認められ大人気だったベット・ミドラーが主演に決定したことで、急遽彼女のイメージに合わせて60年代のロック・シンガーの総体として架空の歌手ローズを仕立て上げ、それに合わせてオリジナル・ストーリーに書き換えたらしい。

僕はこの映画を、大学の4年間に3回映画館で観た。最初に観たのは恐らく1980年の年末。入学した年だが、福岡・天神にある名画専門の「センターシネマ」で一人300円で観られたのだ。その年の春先に主題歌の「The Rose」が、ビルボードのヒットチャートを賑わしたことを知っていたので、そういうヒット作が一年遅れで安く観られたことを喜んだ記憶がある。3回とも同じ映画館だったが、飽きもせず上映のたびに足を運んだし、恒例の「2度観」をしたこともあったと思うので、延べにすれば4,5回は観たことになる。もちろんパンフレットも買った。

にもかかわらず、ストーリーの詳細部分をほとんど覚えてないのはどういうことだろう。もちろん自らの弱さや脆さを隠すために、酒や麻薬の力も借りながらステージに上がり観客を熱狂させる姿は印象的だったし、その激情ゆえに愛に溺れ、傷ついていく流れだったことは覚えているのだが、その話の内容に共感した記憶もあまりないし、そこに60年代のアメリカを見た、などという社会的な問題意識を持ったわけでもない。それでも何度も足を運んだ理由は、ただシンプルにそのステージシーンの素晴らしさと、そこに生き、そこに散ったローズの生を、何度も追いかけたかったからだろう。

ひとつだけはっきり覚えているのは、恐らく感動的に流れるのだろうと思っていた「The Rose」の主題曲が、最後の場面からエンドロールにかけて流れる際、シングル発売されたものよりもテンポが速くさらっとしていて、その映像からも決して感動的に終わろうとしたわけじゃないんだな、と思ったことだ。シンプルな曲にシンプルな歌詞。それはローズの寓意に満ちた人生を淡々と歌っているように聞こえたのだ。

  Link:  The Rose / Bette Midler

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The Rose: The Original Soundtrack Recording / Bette Midler


このロックンロールを主体とした映画にあって、ぽつんと咲いた一つの花のような主題歌「The Rose」は、当時アルバムも出していなかった無名のシンガーソングライター、アマンダ・マクブルームの楽曲である。この映画の音楽監督であるポール・ロスチャイルドはこの曲をプロデュース陣に主題歌として推薦したが、「退屈で讃美歌のよう。ロックンロールではない。」と却下された。それでもあきらめきれなかったロスチャイルドは直接ベット・ミドラーのところに持ち込み、結局彼女がこの曲を気に入ったため最終的に採用されたらしい。

いずれにしてもこの静かな主題歌は思いがけず大ヒットした。ビルボードのヒットチャートを3位まで駆け上がり、ベット・ミドラーはこの歌唱によりグラミー賞の最優秀女性ポップボーカル賞を受賞した。音楽監督の狙いが的中した、ということだろう。ちなみにポール・ロスチャイルドはジャニス・ジョプリンの「パール」など数々の名盤をプロデュースした人物であり、その背景からも、この曲にこだわったことは非常に感慨深い。

一方、「The Rose」の作者、アマンダ・マクブルームは、この楽曲によりゴールデングローブ賞の主題歌賞を受賞し世に出た。日本ではほとんど知られていないが、その後も地道に歌手、ソングライター、女優として活躍していると聞く。今年70歳になる彼女にとっても、この曲は転機となるものだったのだろう。既にスタンダード・ナンバーとも言えるこの曲を、今も大切に歌い続けているらしい。

  Link:  The Rose / Amanda McBroom

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Portraits / Amanda Mcbroom



<おまけ>

 映画「The Rose」の予告編です。海外版ですがぜひ。
  Link:  「The Rose」Trailer

 The Roseは、何といっても歌詞が素晴らしいです。日英対訳でぜひ。
  Link:  The Rose / Bette Midler(字幕:日本語/英語対訳)



 ★ アルバム写真は、Amazonサイトにリンクしています


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On the Radio

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福岡での学生時代、大学の1年か2年の時の話だ。一講目の授業が終わった10時過ぎ、友人のY君と話をしていて、今から映画を観に行こう、という事になった。彼が以前から観たいと言っていた映画「フォクシー・レディ」が、たまたま福岡・天神の「センターシネマ」で上映されていたのだ。その日は、二講目と三講目が休講で、午後3時前に戻ってくれば次の講義に間に合う。最寄りの西鉄・大橋駅から天神までは10分もかからない。時間の余裕は十分だった。

恐らく今はもうないのだろうが、センターシネマは西鉄・福岡(天神)駅のすぐ西側、数多くのミュージシャンを輩出したことで有名なライブハウス”照和”の南向かいにあった。その頃福岡には、メジャーの封切り映画専用ではない学生御用達の映画館がいくつかあって、当時なかなか見られなかったATG(アート・シアター・ギルド)の映画や色々なテーマでのオールナイト上映会などを盛んにやっていた「テアトル西新」、博多駅の建物の中にあった「ステーションシネマ」などにもよく行ったが、その回数から言えば「センターシネマ」がダントツだった。

理由は、便利だったことももちろんあるが、学生300円という価格にあったことは間違いない。封切ってまだ間がない新しい映画から、誰もが知っている名画まで、玉石混交で数日ごとにタイトルが変わった。僕はどんな映画か、その映画が観たいか観たくないかなんてことは二の次で、時間さえあれば一杯のコーヒーを立ち寄って飲むような感覚で気軽に映画を観た。

その時代に見た数々の映画が、「子供」でも「大人」でもない「学生」という中途半端な形で、いきなり知っている人もほとんどいない町に一人来てしまった僕に、初めての世間を、様々な夢や現実を、見知らぬ彼方の世界を見せてくれた。

その日観た「フォクシー・レディ」は、主題曲としてドナ・サマーの「オン・ザ・レディオ」が使われているということで、その音楽が大好きだった僕も、ぜひ観てみたいと思っていたのだ。

映画自体は、今思えばB級青春映画という感じだったのかもしれないが、僕自身にとっては印象に残っている映画のひとつだ。この作品は、4人組のアメリカ・ロスアンジェルスの女子高生が、少女から大人になっていく姿を、当時の時代背景にあったディスコ・ビート、家庭環境問題、ドラッグ、暴力などを絡めて衝撃的に描いてはいたのだが、名作という感じではなかった。

しかし何よりもこの映画は、今や大女優となったジョディ・フォスターが、子役時代を抜けて恐らく初めて「女性」として主演した作品で、若干16歳の彼女は幼くはあるものの、時折どこかぞくっとするような魅力を発する素敵な女性になっていた。さらに当時多少話題になったかと思うが、4人の内の一人で、表面的な明るさとは裏腹の不幸を背負ったキュートな問題児を元女性パンク・バンド、ザ・ランナウェイズのボーカルだったシェリー・カーリーが演じていて、意外な魅力を発していた。(当時、「奥様は魔女」のタバサ役はこの人だった、などという噂がまことしやかに流れたが...あれはデマでした。)

同じLAでも、NHKのドラマでやっているようなハッピーな青春物語とは全く違い、当時のアメリカの女子高生の実像を暗く内省的に描いた映画だったが、ほぼ僕たちと同世代にあたる女優たちの演じる同時代の映画は、何処か自分たちの学生生活の中にある孤独やあせりにもつながる共通項を感じさせ、それに僕も共感していたのかもしれない。

さて、その後ちゃんと講義に戻ったのかどうかは、うまく思い出せないが、観客の入れ替えもなく、当時僕たちがよくやっていた「2度見」をしたような記憶もうっすらと...うーん、どうも都合の悪いことは忘れてしまうらしい。


ところで、何でこんな話になったのかと言うと...それは一昨日の朝のニュースで、ドナ・サマーの訃報が報じられ、学生時代に友人に借りて録音し、今や聴かれないまま押入れの中に入っていたドナ・サマーの1979年のアルバム「On the Radio」のカセット・テープを引っ張り出してきて、しんみり聴きながら思い出したからだった。実は数年前からこのアルバムをCDで買い直したくて、タワー・レコードで時折のぞいてみてはいるのだが、入手できないでいた。

On the Radio / Donna Summer
On the Radio / Donna Summer


このアルバムは2枚組みのLPレコードで、4面それぞれノンストップで演奏されている。その音楽は、巷で言われているディスコ・ミュージックなどという枠を外れ、踊るわけでもない僕の気持ちもわくわくさせてくれる素晴らしいものだった。

「ディスコの女王」などと呼ばれて、印象は4つ打ちのディスコ・ビート一辺倒と思われるかもしれないが、決してそんなことはない。確かにドイツの”カサブランカ・レコード”でデビューし、欧州から火がついてディスコブームを巻き起こしていった主役ではあったのだが、そこの専属プロデューサー、ジョルジオ・モロダーが生み出す音楽は、踊るだけの音楽には決してさせず、むしろ聴かせるための音楽を意識しているようにも感じる。このアルバムはその”カサブランカ・レコード”での最後のアルバムで、”Gratest Hits”という副題の通り、このレーベルでの総括的なアルバムであり、それまでの数々のヒット曲も含め、ジョルジオ・モロダーはシンセサイザーを駆使しながら曲間をつなぎ合わせ、色彩感豊かなアルバムに仕上げているのだ。

一曲目、タイトル曲”On the Radio”の冒頭、ピアノの音とそれに続くドナ・サマーの張りのある声を聴くと、ふと映画でのラストシーンを思い浮かべてしまう。ジョディー・フォスターが、一人の友人の結婚式の帰りに、もう一人の友人の墓前に座り込み、花を手向けながら涙を堪えタバコを吸う姿。その遠くを見つめる憂いを含んだ瞳の奥にあった、生きていくこと、大人になる事の不確かな悲しみと、その更に奥に隠された、強い意志のようなものを、僕はその音楽の中にも感じてしまうのだ。

  Link:  On the Radio - Donna Summer

とはいえ、このアルバムはドナ・サマーの最盛期の音楽がたっぷりと詰まっていて、次第にご機嫌な気分になってくる。彼女の代表作でディスコ・ミュージックの名曲中の名曲である“ホット・スタッフ”や“バッド・ガール”、そして僕の大好きな“マッカーサー・パーク“や”ヘブン・ノウズ”もそのノンストップミュージックの中に入っている。ドナ・サマーの決定版を挙げるなら、やっぱりこのアルバムだな、なんて思うのだが...

  Link:  Hot Stuff - Donna Summer

  Link:  Mac Arthur Park - Donna Summer  (これは10年ほど前の映像です)
  Link:  Donna Summer and Brooklyn Dreams - Heaven Knows

それにしても、2月のホイットニー・ヒューストンの訃報に続いて、ドナ・サマーまでもこんなに早く...本当に悲しい話題ばかりだ。実は、ホイットニーへの追悼として色々流れたその歌声を聴いて、僕は何故かドナ・サマーを思い浮かべていた。あの凛とした歌い方と歌声は、かつてのドナ・サマーと何処か重なるところがあり、そういえば、ドナ・サマーは数年前に新作を出していたが、その後お元気なのだろうか、などと思ってしまったのだ。そんな中で、ホイットニーの葬儀に駆けつけた彼女が車から降りていく映像をたまたまテレビで見かけ、あー、よかった、なんて思ったのだが...それが今回の訃報。享年63歳...うーん、あまりにも早い。残念で仕方がない。

ご冥福をお祈りします。


  *** 映画で使われた、"On the Radio" のインストです。

  Link:  On The Radio (Instrumental)


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